亀梨まどみ物語 第二話

雨、帰れない二人

亀梨まどみ02

その日は雨が降っていたこともあり、まどみを駅まで送ることにした。
こうしていると、いっしょに営業で歩き回った日々が思い出される。

「もう紫陽花あじさいが……そんな季節なんですね」

まどみは花が好きなんだろうか? 考えてみれば、頭の中はいつも仕事の事ばかりで。
そんな事も知らなかった……。

「なぁ、まどみはどうしてそこまでがんばれるんだ? 仕事は他にだってあるだろうし」
「憧れなんですよ。アイドルが」

紫陽花の花を眺めながら、自嘲気味な苦笑いを浮かべてまどみは言った。

「私、中学で女子にイジメられてて……胸、大きすぎるし。嫌なことされても言い返せないから、『マゾ美』とかって呼ばれてて」
「え? へぇ……。実際は違う……よな?」
「どうでしょう? 比較的忍耐強い方だとは思いますけど……自分ではわかりません」

まどみは苦笑いする。まぁ、確かにまどみは従順で、『いじめてオーラ』を感じないでもない。

「私、その頃部屋にとじこもって、テレビの明るくて可愛いアイドルをぼーっと見ていて……」
「キラキラしていて、それだけが生きる希望だったんですよ」

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彼女はそういって微笑んだ。
ひいき目かもしれないけど、俺にはまどみだって十分にキラキラしているように思える。
やっぱり、まどみはアイドルなんだ。まだ世に知られていないだけで、大きな可能性を秘めているはずだ。
共に歩いていると、今日はやけに彼女の温もりを感じる。
蒸すような暑さのせいだろうか。

「プロデューサー……あの」
「ん?」

やけに思い詰めた顔で、まどみは足を止めた。

「自信、つけさせてもらえませんか?」
「自信……?」
「せめて……思い出作りたいんです。初めては、プロデューサーがいいです……」
「え……?」
「好きなんです……ずっと前から。私を見つけてくれた時から……」
「…………」

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まどみは肩に寄りかかってきた。
「…………」
何も言わず、うつむいている。
以前からなんとなく好意を寄せてくれていた事に気がついてはいたが……本気か?
それとも、枕営業の予行演習のつもりだろうか。
どうする……。
いや、ここはまどみの決意に答える必要があるだろう。それがプロデューサーの責任だ、と自分に言い聞かせた。
俺だって、まどみに辛い思いをさせて平気なわけではない。
ならばいっそ、俺の手で……。
俺たちは何も言わずに、ホテルへと向かった。

【次週に続く】

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